スカイポーツの新しい日本カントリーマネージャー、 岡田惇史へのインタビューでは、日本における次世代空モビリティ(以下AAM:Advanced Air Mobility)の導入、日本独自の背景と特徴、そしてAAMが日本に与える影響について詳しく見ていきます。
Q: AAM業界 に対する想いを教えてください?
私たちが住んでいる都市は、これまでも技術の進化と必要性に応じて発展してきました。 何千・何百年もの時間をかけて、小さなコミュニティが、広大な都市圏へと成長してきました。 ただ、この累積的な都市の成長は、必ずしも私たちにとって住みやすいばかりではない都市を生み出してきました。AAMのテクノロジーは使いやすさと効率性を前提にしており、都市生活者の移動を効果的に変えていくと思います。 AAMは、都市をより人間的な場所にしていく可能性を持っています。
私たちは、従来の都市構造を再評価し、都市上空の広大な空間を利用した、3次元の移動の実現に向けて活動しています。 私の個人的なアスピレーションは、スカイポーツのものと非常に一致しています。
地上と空中における人とモノの移動を統合し、より良い、より安全で持続可能な都市の未来を実現することです。
Q: Covid-19の大流行により、世界に大きな混乱が生じました。 AAM業界にはどのような影響があったのでしょうか?
Covid-19の大流行でロックダウン等が起こったことで、人や物が移動することの重要性が改めて示されたのではないでしょうか。
移動が制限され、Eコマースや宅配便への依存度が高まる中、「ひと」ではなく「もの」が動くという変化がおこりました。この変化は、イノベーションと新しい働き方を受け入れる準備という点で、顕著な効果をもたらしました。 例えばドローンによる自律的な配送により遠隔地に向けて重要な医療検査キットや医薬品を届けることが実現されています。 一方でウェブ会議システムが普及しリモートワークが当たり前になるなど、困難な状況にあってもイノベーションが社会に利益をもたらすことが明確になりました。
AAMの技術は、既存のモビリティシステムと次世代のモビリティシステムをつなぎ、A地点からB地点へシームレスでフリクションレスな空の移動・物流を導入するものであり、 ポジティブな変化を起こすことができます。
Q: スカイポーツは、世界各地でAAMの離着陸インフラを開発・運営しています。 日本独自の提案とは何でしょうか?
日本の有名な漫画『ドラえもん』では、のび太とドラえもんが電池で動く小道具「タケコプター」を使って自由に空を移動します。 この空を自由に飛ぶというコンセプトは 、50年ほど経った現在でも、 コミックシリーズ、 ビデオゲーム、アニメの中で繰り返し目にすることができます。 日本人は明らかに長い間このビジョンを持っていましたが、
私たちは今それを、 フィクションの枠を超えて現実の世界に持ち込もうとしています。そして、空の移動は様々な形でこの国に便益をもたらす可能性を秘めています。
Q:日本の公共交通機関は、その効率性の高さが評価されていますが、その中でAAMはどのような役割を果たすのでしょうか?
新幹線、鉄道、地下鉄、バスは、日本全国で広く利用されています。 実際、日本の通勤者の8割以上が都心で公共交通機関を利用しています。 一方で、約3,000万人の東京圏と約2,000万人の関西圏という人口が集中するメガリージョンでは、ピーク時の混雑は“痛勤”と揶揄されてきました。 このような環境では、地域内のコネクティビティを空の移動によって再構築することは、全体の生産性や幸福度にとって非常に重要です。
AAMがひらく空の移動と、地上における既存の交通システム、さらに未来の自動運転などのシステムが有効に接続することで、モビリティを次のレベルに引き上げることができます。
また、超高齢化社会を迎えた日本では、AAMがもたらす効率化は、将来の労働力を支える上でも重要な役割を果たすことになります。 既存の物流・輸送業務を空から補完することで、深刻化する労働力不足を緩和できる可能性があります。
同時に、日本の自然地理は、AAMテクノロジーにとって魅力的なユースケースです。 6,000以上の島と18,000以上の山があり、地震や台風が頻繁に起こる脆弱な国である日本において、 AAMの技術とインフラが整っていれば、いざという時の災害救助、捜索・救出、緊急対応活動を大幅に強化することができます。
Q: AAMが実装された社会とは?
私は、日本の都市、郊外、島々のコミュニティがより密接になるような、かつてない規模のコネクティビティを想像します。 この新しい社会は、より住みたい場所に住み続けられ、安全で、より持続可能で、よりアクセスしやすいものになるでしょう。
東京や大阪などの大都市では、AAMが交通エコシステム全体の効率と総合力を高めることで、コネクティビティの向上が進むでしょう。自動運転の車、オンデマンドバス、高速鉄道とともに、シームレスに統合された交通ネットワークができれば、人や物をより速く、より経済的で持続可能な方法で目的地まで運ぶことが可能になるはずです。 異なる交通手段間のマルチモーダルな接続性も重要であり、日本の交通システムはその模範となるものです。
バーティポートのネットワークは、AAMを地上や海上の輸送につなげるハブとして重要な役割を果たすでしょう。 将来的にAAMがタクシー料金に近づけば、潜在的な利用者の利用も増加するはずです。 また、日本は島が多いので、島と都市部をAAMで結ぶ可能性もあります。
島と島を移動したり、島から陸に移動したりする際に、乗り換えの回数が減り、より速く移動できるようになる未来が待っています。 またAAMには都市のレジリエンス強化の一面もあります。
経済面では、投資、観光、新たな雇用や付随産業の創出を通じて、 経済を活性化させ、資本の流入を促進する。 また環境面では電動航空機とバーティポートにより、カーボンニュートラル目標に大きく貢献することが可能です。
Q: スカイポーツの日本での活動は、今後どのように展開されるのでしょうか?
この業界が本格的に軌道に乗るまでには、まだまだ多くの下準備が必要です。 私たちは、AAMの各プレーヤーによる活気に満ちた協力的なエコシステムを構築し、実世界での展開に向けたビジネスモデルの検証を続けていく必要があります。
AAMは新興産業ですが、そのルーツは航空、運輸、ロジスティクス分野です。 米国、欧州、シンガポールのAAM先進都市で培った経験を上手に活かせば車輪の再発明をする必要はありません。むしろ それらの基礎的な専門知識と経験をレバレッジしつつ、日本で考えるべきことに時間が使えればと思います。 スカイポーツでは、機体OEMや、従来の航空・運輸企業、自治体や規制当局などの公共部門と一緒にエコシステムを構築していければと考えています。
AAM産業全体が、まだ実際の商業運航が開始していないため、投資を集めるにも事業の蓋然性が極めて低い状態です。 海外での初期の実装のデータを参考にしつつ、事業の意思決定がしやすい状態に持っていければと思います。
そのためには、時間とエコシステム全体の協力が必要ですが、スカイポーツとパートナー企業は、すでにAAMの実現に向けた道を歩みはじめています。
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真に効果的なエコシステムを構築するために、私たちのチームは、行政、規制当局、機体OEM、運航事業者、保険会社や不動産所有者などと密接に連携していきます。 バーティポートの開発・運営や、日本における当社の取り組みについてご興味がある方は、[email protected] までご連絡ください。 岡田惇史は、スカイポーツの日本カントリーマネージャー。2022年10月にスカイポーツの日本オフィスを設立。インフラとドローンサービスの両方の事業を統括。日本における不動産契約、地元関係者の関与、規制当局の承認、空港・空域計画、オペレーション、実現技術などを指揮。
建築コンサルティング、都市計画・都市デザインの分野で10年以上の経験を持ち、特に交通とスマートシティ開発のエキスパート。また、経験豊富なチームリーダー、プロジェクトディレクターとして、技術統合や重要インフラに関するプロジェクトの計画、実行、を推進。ボストンコンサルティンググループのプリンシパルとして、テクノロジー、メディア、テレコム部門、人材・組織部門のコアメンバーとして活躍。不動産、鉄道、建設、物流、通信、メディアなどの企業の全社的な変革プロジェクトをサポートしてきた。 一級建築士。東京大学で土木工学の修士号、同大学で建築学の学士号を取得。